この照らす日月の下は……
26
しばらくすれば子ども部屋と呼ばれているリビングにミナとギナが顔を出した。
「ホムラ殿についてきたそうだ」
あれは、とミナが口を開く。
「明日には帰るそうだから、面倒であれば無視してかまわんぞ」
さらにギナがこう言う。
「……あの女の子……?」
あれというのは、とキラは首をかしげる。もう一点『ホムラ』とは誰なのか。そんな疑問も抱く。
「あれはアスハの娘よ。ホムラ殿はウズミ殿の弟だな。アスハの一の分家になるな」
ミナがそう説明してくれた。
さすがのキラでも《ウズミ・ナラ・アスハ》の名前は知っている。と言うことは先ほどの少女が《アスハの姫》と呼ばれる存在なのだろう。
「僕、お部屋から出ない方がいい?」
先ほどの様子から判断して、とキラは問いかけた。
「気にしなくていい。あれはこちらには来ぬはずだからな」
「お前が遠慮することはない。遠慮するならば、勝手に押しかけてきたあれであろう」
ギナはそう言ってキラの頭に手を置く。
「お前はいつも通りにしておれ」
そしてこう続けた。
「でも……」
「いいんだよ、キラ。こちらは私たちのための場所だからね」
キラがさらに言葉を重ねる前にラウが口を開く。
「だから、優先権は私たちにある。子ども部屋とはそう言うものだろう?」
ラウに自信満々に言われてしまえば、そう言うものかと思わざるを得ない。
「そうそう。そこの二人なんてここでとんでもないことをしても黙認されているしな」
さらにムウがこんなセリフを口にしてくれた。それに覚えがあるのか、双子は苦笑を浮かべるだけである。
「そのこいつらが『気にしなくていい』と言っているから気にするな」
「……うん」
何かまだ納得できないが、彼等二人がそう言うのであればそうなのだろう。
「もっとも、その子がキラと『友達になりたい』って言ってきたら付き合ってやれ」
ムウがそう付け加える。それにキラは首を縦に振ることで答えを返す。
「放っておけばいいのに、あいつなんて」
だが、カナードはあの少女が気に入らないようだ。
「どうしたの?」
「あいつ、すごいわがままだからな」
付き合いきれない、と彼は唇をとがらせる。
「お前がけんか腰だからだろう?」
あきれたようにラウが言葉を口にした。
「キラと同じだと思ったら、全然素直じゃないんだぞ」
「あれが普通。キラがおとなしくていい子なだけだ」
自分はどうだったか思い出せ、とムウが笑う。その瞬間、カナードの頬が倍ぐらいに膨らんだ。
「そういうことだ。ともかく、キラ。あまり気にせず、普通に過ごせ」
ミナがそんなカナードを無視して言葉を綴る。
「間違ってもそれのようになるでないぞ」
だが、ギナの方はカナードをいじるのが楽しいらしい。こんなセリフを口にする。
「……ダメなの?」
キラはそう言って首をかしげた。
「素直な方が可愛らしいからの」
もっとも、とギナはさらに言葉を重ねる。
「あれは『可愛い』からほど遠いがな」
「悪かったなぁ!」
言葉とともにカナードはギナに飛びかかった。しかし、簡単にいなされてしまう。それどころかウエストのところを捕まれたと思ったら、そのまま上下逆につるされてしまった。
「まだまだ甘いの」
そう言ってギナは笑う。
「絶対『参った』ていわせてやる!」
「あと百年、早いの」
それは死ぬまで無理と言うことなのか、とキラはそんなことを考えてしまった。